「ねえ、、今日はとても天気が良いんだよ。」
そうね、ダイゴ。とは僕に返事をした。
五月晴れ。
風もおとなしいし、気分は最高だ。
「こんな日は何処かに出かけたくなるね。」
買い物に行くのも良いし、公園にでかけるもの良い。
あ、そういえば今日は近くでお祭りがあるんだっけ。
そこに行くのも良いなあ。と思っていたが、
日差しが強すぎるわ、と困った風には言う。
僕はの座っている椅子の背もたれに手を伸ばし、
の後姿を見下ろした。
「ああ、そうか、君は日焼けするのが嫌いだったね。」
確かに今日は気を抜くと日焼けをしてしまいそうだ。
の真珠のように白い肌が焼けてしまうのは勿体無い。
気持ちの良い風が吹いた。
カーテンがふわふわと踊る。
「じゃあ、今日は家でゆっくりしていようか。
僕たちにはまだまだ沢山時間があるからね。
今日行かなくても、また行く機会は何度でもあるから。」
僕は目を細めて、優しくそう言った。
そう、僕たちはもうすぐ結婚する。
そうしたら、君は僕のかわいい奥さんで、
僕は君の素敵な旦那さん(になれたら良いな。もちろん頑張るけれど)。
新しい食器で食事をして、ペアのマグカップでコーヒーを飲んで、同じベッドで寝て。
絵に描いたような幸せな毎日が始まる。
「コーヒーでも飲むかい?」
そう僕が聞くと、
ええ、貰えるかしら?
とは言う。
「いつも通り、角砂糖は1つでいいね?」
そうダイゴが聞いた瞬間だった。
カラン…
とても小さな音が部屋中に響いた。
ダイゴは反射的に音の出所に目を向けた。
指輪だ。
の細い細い薬指から指輪が抜け落ちている。
僕がプレゼントしたプラチナの指輪が。
「…指輪が落ちちゃってるよ。」
………
無反応。あれ? おかしいなあ。
、指輪が落ちたことに気がついてないんだね。
ピンポーンとチャイムが鳴った。
ダイゴはため息を付いて玄関へ向かう。
ドアを開けると、ミクリが深刻そうな表情で立っていた。
ああ、また来たんだ。
僕はドアに少しもたれかかって対応を始めた。
「ミクリ、ちょっと今取り込んでいるんだ。」
最近のミクリはおかしい。
も最近口数が少なくなったけれど、きっとマリッジブルーだとか
そういうもののせいだろう。
しかし結婚するわけでもなく、
男であるミクリがマリッジブルーになるのはおかしい話だ。
こんなおかしいミクリが家に入ったら、きっとはもっと悪くなる。
「ダイゴ、もう止めてくれ…」
ああ、また、やっぱり。
また、ミクリは馬鹿げたことを言い始めようとしている。
ダイゴはミクリを侮蔑を含んだ目で見た。
「…はもう死んだんだ……いい加減受け止めてくれ…」
……やっぱり。
「何を言っているんだ?
幾らミクリでも言って許されることと許されないことがあるよ。」
冷静に僕は返事をした。
こんなことを言う友人はさっさと追い返すほうが良い。
早くドアを閉めてしまおう。鍵も何重にもかけて。
それに、そんなことを言って、に聞こえていたらどうするつもりなんだろう。
を傷つけるつもりなんだろうか。いいや、そうに違いない。
そう思っているうちに、友人はまだ話を続けた。
「は、…もう、何処にも、何処にも居ないんだ、ダイゴ。
…死んでしまったんだ。」
あまりにくどい友人にとうとう僕は堪忍袋の緒が切れた。
「違う! は生きている!!
死んでいるわけなんてない!!」
ミクリの胸倉をつかんで怒鳴った。
「それに、こんなことしたっては帰ってこない…
だって、いつまでもこんなことをダイゴにして貰うなんてことは望んでいないさ。」
ああ、ミクリ。
君はきっとおかしくなってしまったんだろう。
ダイゴは胸倉を掴んでいた手でそのままミクリを外へ押し、
すばやく家のドアを閉め、そして鍵をかけた。
が、死んでいるなんてありえないじゃないか。
そりゃ、口数は減ったけれど、僕の呼びかけにはちゃんと返事を返してくれるのに。
……そう、僕の呼びかけには……
「ごめんよ、
ミクリがおかしなことを言いに僕の家に来るから、せっかく気持ちいいけれど、
窓は閉めるね。」
に断りを入れてから、窓を閉め、カーテンも閉めた。
振り返ると、ダイゴにきらりと冷たく光る小さなものが床に落ちているのが見えた。
「、指輪、落ちてるよ?」
「…」
最後の春