*設定:高校生





 梅雨もまだ明けきっていない筈なのに、そうとは思えない暑さの日だった。

 とデンジは海にいた。
 平日の昼前。もちろんそこには二人以外には誰も居なかった。


  「学校サボるのって初めて。どきどきするね!」


 楽しそうな
 いつもは俺一人だけど、今日はがいる。
 俺は少し新鮮な気持ちになっていた。

 二人は砂浜を歩きながら会話をしていた。

  「俺は結構やってるけどな。2時間目位まで。」
  「うん、よく遅刻してくるもんね。…怖くないの?」

  「何が?」

  「あ、怖くないんだね。
 いや、まあ、デンジだしそんなこと思ったりしないかなって思ったけど。
 親とか、先生とか、授業についていけなくなるかもとか、皆と同じことしてないのとか。
 そういうのに対して。」

  「…まあ、ちょっとは感じるんだけどな。でも、瑣末なものとしか思えない。
 俺はどうせジムリーダーになるつもりだし、それなら勉強なんて本当はいらないからな。
 先生もそれを知ってるから、何も言ってこないし。…まあ、見放されてるのかな。
 …そうだ、はどうして急に『学校サボってみたい。』なんて言って来たんだ?」

 どんな宿題の締め切りもきちんと守るような生真面目なが自ら非行に走るなんて、
 俺には最初、天地が逆さまになったんじゃないかって位の衝撃だった。

  「…んー、ちょっと息が詰まって苦しかったからかな。
 勉強ばっかで。逃げたかったの。
 こういうこと、一度でいいからしてみたかった。」

 俺の知らないところでの肩には沢山の重荷が乗っかっていたのだと思う。
 俺にはそんなものが無いから、わからないけれど。

  「親が知ったら吃驚するな。」
  「まあね。バレるだろうけど。」


 デンジがいつも時間をつぶしている岩陰に着いた。
 日陰もあって、風が吹くと涼しかった。


  「座ろう。」
  「うん。」

 岩の上に二人は並んで座った。


  「暑いね、今日。」
  「そうだな。」

 明日からまた雨だとは思えない天気の良さだ。
 梅雨のはずなのにな。晴れすぎだろう。

 そんなことを考えているうちに、が俺にもたれかかって来た。
 ちょっと暑い。でも嫌じゃなかった。


 、何かあったんだろうな。息が詰まるって言ってたけど。
 今までがそんなこと言ってるのを聞いたことが無かった。


  「…なあ、もし何か辛い事とかあったら言ってくれよ。
 言いたくなくても、今日みたいにサボろうって言ってくれたらついて行くから。」


 俺、今、すごくらしくないこと言ってる。
 柄にも無く恥ずかしい。

 でも、俺にとってはそうしたいと思わせる存在なんだ。


  「…うん、ありがと。
 そういってくれるの、嬉しい。」


 は笑顔でそう言った。