「ここには沢山星が落ちているんだよ。」

  「星?」


 当たり前のことだけれど、星は空に輝くものだと私はまず初めに思った。

  「そうだよ。沢山、光っているんだ。」

  「でも、星は空に輝くものだよ?」

 そんな当たり前のことをゲンにぶつける。
 星が空以外にあって、しかも輝くなんて今まで考えたこともなかった。
 無論、そんなこと考える機会に恵まれるわけもない。
 今までこの地上で星が光っていたことがないからだ。

 しかし、ゲンはにっこりと笑っていた。

  「たまに空からここに落ちてくるんだ。
 だから、夜になると空に居た頃のように光ってみせるんだ。」


  「ほら、光り始めた。」


 川の中から光の柱が何本も立ち始める。

 何かが光っている。自ら発光している。
 本当に星があるのかもしれない、とは一瞬疑った。


  「……」

 ものすごく幻想的だ。
 光の柱は一箇所に留まる事はなく、ゆらゆらと移動をし続けている。

 不運にも落ちてきてしまった地上で、空に焦がれ、居場所が変わった今でも
 なお星が光り続けているのだと信じたかったが、
 じっと見ているうちに星の正体が一体何なのか、わかった。

  「……ランターンだね。」


 でも、綺麗なのには間違いない。
 ゲンはこういった詩的な表現をたまに出すところが、素敵なのだ。
 ただ見るだけでも綺麗だけれど、これを星と言ってしまうあたりが想像力豊かだと思う。


  「彼らは生き死にを賭けて餌をとろうと必死なのに、
 それを見て僕たちは美しいと思うのだから、すごいよね。」


 一つの柱が煙のように消えた。


  「そうだね。」

 なら、私たちも神秘的な星の光を求め、近づいて、
 知らず知らすのうちに命を落とそうとしている者たちなのかもしれない。
 さっきまで幻想的で綺麗だと思っていたのに、少し怖くなった。


  「はあの星が欲しいかい?
 欲しいなら、取ってきてあげるよ。」

 駄目、それ以上近づいては。
 ゲン、その光は触れてはいけないものだよ。

 もしこれ以上近づいてしまったら、
 ゲンはどこかに連れて行かれてしまうような気がした。


  「いい、要らない。行っちゃ駄目!」


 はゲンにしがみつく。
 の大声に驚いて、ランターンは発光を止めた。
 急に光の柱が全て消え、辺りが真っ暗になった。



  「うん、何処にも行かないよ。」



 真っ暗な中でゲンは優しく抱きしめ返しながらそう私に呟いた。
 愛おしさを込めた低い声で。



 そして彼の胸の中で私は星空に祈った。




 輝く星なんか、いらない。
 だからどうか、彼だけを私の傍に置いてください。










水底に棲む星