020.堕ちてゆく



 未だかつて、これほど身の危険を感じたことがあっただろうか。




020.堕ちてゆく



 とにかく、やばい。やばいったらない。


 何がやばいかって?
 そりゃ、この状況の全てだ。


 君が今、僕を押し倒しているという状況。
 まだ小さな子供なのに大人の僕をいとも簡単に押し倒しているという、状況。


 …先程から体が思うように動かない。
 さっき食べた手作りのお菓子に、何かを入れていたのだろう。


  「あのー、…?」


 僕はとりあえず、この状況を打破するために君に話しかけた。


  「?」


 不思議そうな顔をして僕を見た。

 いや、何不思議そうな顔してるんですか、あ、でも可愛い。
 …い、いや、そんなこと考えている場合じゃない。そうだ、ちゃんとしろ、僕!


  「大丈夫」


 そんな笑顔で言われても。…言われても……

 …はあ。

 僕は大きなため息をついた。

  「、…これ以上やると、僕、…捕まるんだけど。」

  「私が許すよ」

  「いや、法律が許さないんだ。」


 そう言ったところで、君は僕の唇の上に人差し指を置いて、


  「誰にも言わなきゃいいんだよ。」


 と、妖しく笑った。微かな色気を持って。
 それを見て、僕は内心どきっとする。

 子供なのに、どうしてこんな顔できるんだろう。



  「ねぇ、大丈夫だから…」
  「…」



 今なら。今なら、まだ、間に合う。
 この子を突き飛ばしまえばいい。そして、諭せ。


 いや、このまま。
 このまま流されてしまえばいい。
 感じたことの無い快楽に溺れてしまえばいい。







─…僕は、どうしたらいいんだ─