064.めがね








  「メガネって、キスするとき、邪魔だよね。」

 僕の部屋で、抱き合っている最中にはそう言った。

  「じゃあ、思い切ってコンタクトにしようか?」
  「だめ。
  それじゃあ、ヒョウタかわかんなくなる。」
  「…(それってどうだよ)」

 ぎゅっ、と
 はさっきより強い力で僕を抱きしめた。

  「冗談だよ。」
 
 小さい声で、面白そうに囁いた。

  「それにね、私、メガネ取るの好きだから。」

  「メガネを取るのが好きなの?」

 僕はの髪の毛を梳きながら、そう聞き返した。

  「うん。」



  「だって、それは私に与えられた特権だもん。
  ヒョウタのメガネを外していいのは、私だけ。」

 そういうと、僕の耳の辺りに右手を寄せた。
 …そうだよ、
 君だけさ。僕からはっきりとした世界を奪っていいのは。
 そして、僕の世界は君だけになるんだ。


 君と居る世界は、僕にとって曖昧なものだ。
 けれど、この唇のぬくもりは何者にも変わりはしない真実なんだと思う。