「…やめなさい」 「…何故」 私はあの時、学校に登校してこない君のことが気になって、 家庭訪問をしました。 すると、君はカーテンを閉め切った、 カーテンの布の隙間から漏れてくる光しか光源のない暗い部屋で 一人、ベッドの上で剃刀を握っていました。 君の母君はそこで、 ああ…、と言いながらへなへなと崩れ落ちました。 「お願いです。…やめてください。」 「どうして」 「…そういうことをして欲しくないからです。」 「どうして」 「…」 私は、君の手から剃刀を奪いました。 君は、僕の事を恨めしそうに見ていましたね。 私はそんな君から目を逸らしてしまった。 怖かったんです。 私には、君と向き合う勇気がなかったんです。 なのに、君から剃刀を奪ってしまった。 私は弱かった。 君を抱きしめてやることすら、できませんでした。 抱きしめて、 良いんですよ、君は生きていて良いんです。 そう言って頭を撫でてあげればよかったんです。 そうすれば、結果は変わっていたと… 無論、自分が大層な人間ではないことは分かっています。 そうしたって、結果は何も変わらなかったかったかもしれません。 ですが、私は悔やまずにはいられないのですよ、。 出会った頃の君は、光り輝いていました。 笑顔の素敵な生徒。 よく、ありがちな形容詞ですが… 本当にあの頃の君は素敵でした。 しかし、君は妊娠してしまいました。 それからです。君の運命が音を立てながら崩壊していったのは。 相手の男は、聴いた話によると君が当時付き合っていた男性で 君が妊娠したと聞くと、すぐに連絡を絶ったそうですね。 …ああ、お前がきちんと彼女の幸せを守ってやれば… それでも、君はその体に宿っている命を大切にしていましたね。 どんなにクラスメイトに、周囲から冷ややかな目で見られようと。 君はその温かい命があれば、耐えることができました。 しかし、運命はまた君を突き放し、 君の中にいた子供は死んでしまいました。 きっと、君にとって、悲しいけれど剃刀は、 君のやりきれない気持ちを発散させる為に必要なものだったのです。 なのに、私は正論をかざしてしまった。 君のやりばのない気持ちを受け止めることもしないで。 きっと、私は君に嫌われたのだと思います。 これでは、周りの、何もしてくれない人たちと変わりませんから。 「………自分だって、死にたいくせに。」 抑揚のない小さい声で。 君が最後に私に向けた言葉です。 苦しい。苦しい。苦しい。 ああ、何て私は罪深いのだろう。 私は、また、背負わなければならない重荷が増えました。 ああ、 あのとき
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